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04
300周年インタビュー・メッセージ
INTERVIEWS &
MESSAGES

写真左から株式会社日建設計 田中公康氏、広島修道大学財務課 酒井健志郎課長補佐、株式会社フジタ広島支店 吉田哲朗氏

VOL.4

〈座談会〉 未来を拓く、未来へつなぐ
―新体育館が描く
SHUDAIのビジョン

─前編─

広島修道大学では、学園創始300周年記念事業として新体育館の建設を進めています。従来の体育施設の枠を超え、多彩な機能を備えた場として再構築される新体育館。プロジェクト発足から一貫して携わる広島修道大学財務課 酒井健志郎課長補佐、田中公康氏(株式会社日建設計)、吉田哲朗氏(株式会社フジタ広島支店)が、それぞれの立場から見たプロセスの背景、そしてこの体育館を通して描かれる大学の未来像などについて語り合いました。

300周年事業として再定義した
新体育館プロジェクト

酒井健志郎課長補佐

酒井健志郎課長補佐(以下:酒井)

新体育館建設プロジェクトは、2021(令和3)年3月の理事会で正式に決定したのですが、当初は校舎等建替計画の一事業として、2028(令和10)年の竣工を目指していました。
しかしながら、築50年を超えた既存体育館は、老朽化に伴う安全面への懸念があることに加え、バリアフリーに対応していない動線、冷暖房設備の未整備など、喫緊の課題が山積みの状態でした。
そこで、2025(令和7)年に学園創始300周年を迎えることを契機として、周年記念事業として位置づけ直し、計画を3年前倒しする形でプロジェクトを始動しました。新体育館の建物概要は地上3階(地下なし)、高さ19.98メートル、建築面積4,614.89平方メートル、延床面積10,811.16平方メートル。今年(2025年)9月の供用開始を目指し、工事を進行中です。

田中公康氏

田中公康氏(以下:田中)

工事は既存テニスコートを移設した跡地に、新体育館を建設するという段取りで進めています。体育館の完成後、隣接する既存体育館を解体し、跡地を駐車場として整備する工事がありますので、全体の工期は2026(令和8)年7月までを想定しています。

吉田哲朗氏

吉田哲朗氏(以下:吉田)

少し前のデータですが、先月(2025(令和7)年4月)末時点の進捗率は全体工事の88.3%。現在、建物においては、館内にある機器の試運転調整や最終仕上げのチェック、クリーニング工事などを行っています。
外構については、舗装の下地を作る路盤工事、アスファルト舗装、インターロッキングブロック舗装(幾何学状のコンクリートブロックを敷き並べた舗装)を進めています。

田中

設計の前段階である基本計画の立案に際しては、大学関係者の皆様から幅広く意見を伺うために、ワークショップを開催しました。「新体育館に求める機能」をテーマに意見交換を行いました。

酒井

ワークショップでは本学の教員がファシリテーターとなり、学生や保健体育グループの教員、職員も参加して開催しました。このワークショップをもとに、「大学・地域にとって開かれた空間を提供する体育館」「オープンで多様な居場所を創造する体育館」「2025年のスタンダードを体現する体育館」というコンセプトを設定しました。この3つのコンセプトについては、後ほど改めて触れたいと思います。

機能を「シェア」する体育館

田中

施設の規模や概算コストについては、ある程度枠が決まっていたので、その枠内に、多様な意見や要望をどのように取り込むかがポイントとなりました。そして、限られた空間の中で複数の用途を兼ねることができる「機能をシェアする体育館」という方向性が固まりました。

酒井

既存の体育館には、柔道場や剣道場といった専用施設が設けられていますが、特定のサークルしか利用しないため空き時間が多く、稼働率の低さが課題となっていました。

トレーニングルーム

トレーニングルーム

田中

ええ、以前は単一目的の施設が一般的だったんですよね。そこで、新体育館の基本計画において、空間を共用化しながら多目的に使えるようにする「シェア」の方針を決めました。
例えば1階のトレーニングルームの中にスカッシュコートやボルダリングウォール、柔道畳スペースを設けて同時に利用できるようにしたり、サブアリーナでは、ネットや可動間仕切りで空間を仕切ったりつなげたりしながら、多彩なサークル活動や授業に対応できるようにしています。
しかし、本プロジェクトは工事費が高騰中の時期にスタートしたため、時間が経つほど工事価格が目標予算に合わなくなるリスクがありました。そこで大学様とご相談し、設計スケジュールを大幅に短縮し、早期の着工を目指すことに変更。当初予定よりも基本設計期間を半年ほど詰め、さらに施工者を実施設計のパートナーとして、早期に決定する形を取りました。

酒井

はい、設計チームには非常にご苦労をお掛けしましたが、皆様のご尽力のもと、基本設計、施工者決定、実施設計とスピーディーに進めることができ、2023(令和5)年6月の着工に至りました。

設計と施工の両輪で
合理性を追求

田中

施工者に決定したフジタさんとは、目標予算内に収めるための知恵を一緒に出し合い、余分なものを極力省く設計を実現しました。主要な部材を扱うメーカー、例えば鉄骨ファブ(鉄骨ファブリケーター:鉄骨工事を請負って実際に加工する専門会社)との交渉も早めに進め、複雑な鉄骨の検討を事前に詰めることができた点も、フジタさんとの協働の大きな成果だったと思います。
通常の発注方式では、基礎工事の後すぐに鉄骨を建てる必要があり、鉄骨ファブ側との調整時間がほとんど取れません。しかし今回は、そうしたやり取りに事前に時間を確保できたことで、構造的にも美しく、かつ無駄のないフレームを実現できました。
また、設備についても早期に調整を進めたことで、配管や配線などの要素を敢えて露出させたデザインを採用し、見た目のすっきり感を保ちつつ、コスト抑制にもつなげています。館内を歩くとおわかりいただけると思いますが、新体育館には天井がほとんどありません。一般の建物では天井で隠れる鉄骨やダクト、電気配線などをそのまま見せているのですが、こうした裏側の設備をスッキリ整理するのは、意外と難しいんです。

天井板を省いたスケルトン構造

天井板を省いたスケルトン構造

吉田

通常は隠れる部分を、あえて意匠として“見せる”スケルトン構造では、すべてが視界に入るため、施工においては、部材の納まりや仕上げにかなり気を配りました。配管などが天井で隠れる場合と違ってデザインに直結するため、作業はとても大変でしたが、やりがいがありましたね。
配管には亜鉛メッキ材を使用し、そのままの状態で仕上げています。塗装を施せば一見美しいのですが、時間が経つと剥がれたり色褪せたりすることもあります。その点、メッキ仕上げは経年劣化にも強く、メンテナンスもしやすい。結果として、ランニングコストの面でもメリットがあります。見た目の美しさと実用性を両立した、合理的な設計だと感じます。

「SD」が象徴する
新時代の体育館

酒井

現時点(2025(令和7)年5月下旬)で体育館の外観はほとんど完成していますが、正面から見ると広島修道大学の頭文字「S」と「D」(SHUDAI)を象ったデザインが印象的ですね。

田中

当初は、キャンパスを構成している建物――図書館や3号館、協創館のような、スレンダーな柱と庇のラインを強調したシンプルな外観デザインをご提案していました。しかし、学園創立300周年を記念する体育館として、よりインパクトがあり、地域にもアピールできるデザインが必要だと考え、新たな案をいくつかご提示しました。その中で、最もコンセプトが明快でインパクトがあったのが、ファサードに「SD」を描く案でした。「SD」は修大のスポーツ活動で使用される「スポーツロゴ」のモチーフでもあります。

開学60周年を契機に制作されたスポーツロゴ

開学60周年を契機に制作されたスポーツロゴ

酒井

このファサードのデザインは、田中さんが考案されたと伺いました。

田中

はい、実はコスト圧縮を考えた結果でもあるんです。新体育館は3階建てですが、物価高騰に対応するため、使用する部材をできるだけ少なく抑えなければならない。しかし、バレーボールなど、空間の高さを要する競技にも対応できるようにする必要がある。そこで、鉄骨トラス構造(直線の三角形の部品で作られた高荷重支持構造。鉄橋などにもよく用いられる)でスパンを大きく飛ばし(柱と柱の間隔を広くする)、効率的に空間を大きくした結果、当初デザイン案の段階から、屋根は「S」の上部のような形状だったんです。また、2階と3階にあるテラスを繋ぐと動線が良くなる、さらに屋根と結ぶことで「S」の形が描ける……よし、これを提案に加えようと。

酒井

機能とデザインを両立させつつ、コストアップも抑えられる設計なんですね。ファサードは大きなガラス面も特徴的です。

田中

北に面しているため、直射日光の影響が少ないことを活かして大きく開口部を設け、明るい自然光の中で、スポーツを楽しめる環境を作りたいと考えました。
また、3階フロアを周回するランニングコースには、ファサード以外の面にもぐるりとガラス窓を設けています。周囲の山々が見渡せる、修大ならではの眺望を楽しみながら、天候に影響されずにランニングができますよ。学生さんはもちろん、教職員の方々にも気軽にランニングを楽しんでいただければと思います。

メインアリーナ

メインアリーナ

ランニングコース

ランニングコース

吉田

ガラスの面積が多いことも新体育館の特色ですね。柱の少ない広々とした空間と、外部の景色が見渡せる視界の抜けの良さが合わさって、開放感のある体育館になっていると思います。
「SD」型のファサードは、曲面の部分もあり、ディテールが複雑でした。そこで、コンピューター上に現実と同じ建物の立体モデルを構築し、各部位の干渉チェックや納まり検証を行い、データ上で確認しながら製作図を作成しました。施工者泣かせの設計で(笑)、作図にはかなり時間を要しましたね。
また、屋根の鉄骨が非常に長く大きいため、施工と鉄骨の品質管理には苦労しました。また、屋根やファサードの形に合わせた足場を、タイミングを見極めて組む必要もあり、工事の進め方を決めるのがとても難しかったです。

田中

吉田さんには、本当に粘り強くご対応いただきました。設計と施工が一体となって取り組んだ結果、このファサードはもちろん、工事全体においてクオリティの高さとコストの抑制を両立できたと改めて実感しています。